豊かな時間とは~『モモ』を呼んで

 学生時代に読んだ、ミヒャエル・エンデの「モモ」を最近読み返してみました。有名な作品で、舞台演劇にもなっているので、皆さんもご存じかもしれません。これは「時間」がテーマの児童文学で、慌ただしい師走にぴったりのお話なので、今回ご紹介させて頂きます。

 さて、私が注目したのは、このお話の登場人物である、「道路掃除夫のベッポ」です。ベッポは毎朝、夜の明けないうちに道路の掃除をするのが仕事です。彼はこの仕事が大好きで、誇りをもって、とても丁寧に掃除します。『ひとあしすすんではひと呼吸し、ひと呼吸ついては、ほうきでひとはきします』そんなふうに、ゆっくり仕事をするのです。けれど、とても長い道路を受け持った時には、これじゃとても全ての掃除をやりきれないと思います。そこで、スピードを上げて、ものすごい勢いではきまくるのですが、息が切れて動けなくなってしまいます。そこで彼は言うのです。『いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん。つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。(略)』『するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ仕事がうまくはかどる』そうすると、気がついた時には仕事が全部終わっているのです。私はこの場面がとても好きで、40年ぐらい前に読んだ時も、この場面が印象に残ったのを覚えています。そして再読した今、これはまさにヨガ哲学と同じだなぁと思いました。

 話を続けましょう。ところが、そんなふうに人生を楽しんでいたベッポや人々が変わってしまうのです。時間泥棒である灰色の男たちが提唱する「よい暮らしのための時間節約」に追い立てられ、1秒も無駄にしないように生きなければならなくなってしまいます。これは現代の象徴です。時間通りに分刻みで行動し、スピードが求められる世界。「忙しい」「時間がない」と走り回り、反対に豊かな時間を奪われてしまう。便利さやお金儲けだけを追求した結果、夢や笑顔は失われ、人々は本当の意味で「生きる」ことを奪われてしまうのです。空想のお話だけれど、今、まさに世界は、この話の舞台と同じ状況ではないかと考えさせられます。そんな世界に挑む浮浪児の小さな女の子、モモ。興味がある方はぜひ読んでみてください。図書館で借りられます。小学生向きの本なので、お子さんにもいいかもしれません。心豊かに生きるってどういうことだろうと考えさせてくれるお話です。

 そんな時間泥棒から時を取り戻し、穏やかな時をもたらしてくれるのが、私にとってはヨガです。来年も皆さんと一緒に、心豊かで、充実した時を過ごせることを楽しみにしています。

少し気が早いけれど、どうぞ、よい年をお迎えください。